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デザインはシンプルがいい、と言う前に考えるべきこと

デザインを決める会議の席や、意思決定に欠かせない部門にデザインの相談にいくと「デザインはシンプルがいい」と耳にすることがある。

相手はデザイナーではない。デザインを表現する言葉が少ないため、何のひねりもないセリフになってしまう。だがシンプルさというものは売り上げ機会減少のリスクを減らす手段であり、ビジネスとしての利点がある。

シンプルな見た目のものは個性的な見た目よりも嫌われにくい。
機能や価格、ブランドなどは好みに合っているのに、見た目が好みに合わない個性的なものだと気分が萎えて買ってくれなくかもしれない。
一方、とりあえずシンプルな見た目であれば、魅力は乏しいかもしれないが決してマイナス評価にはならないので買ってくれる確率が高くなる。


シンプルなデザインを噛み砕いていうと、四角とか円弧など単純形状の組み合わせにしたり、白や黒の基本色を使って仕上げはサラッとした手触りの梨地にするなど、見た目を単純化することだ。そうすると必ずどこかで見たような見た目になる。実はそこが肝で、人は見たことがあるような形を目にすると、無意識に安心するのだ。「このデザインは自分に理解できる」「おれの理解力に攻め入ってこない」と。

また、よく雑誌で「飽きのこないデザイン」っていう紹介される商品を目にするのも同じだ。飽きが来るか来ないかは使う人や買う人見る人が判断する主観であって筆者の言うことじゃないのだが、この文はつまり外観のシンプルさを言っている。
「飽きのこない」と言われたらつまり、どこかで見たことのあるよくある形ですね、を意味し、すぐに消えて無くならない組み合わせでデザインされていて、ずっと続くような安心を与えてくれる見た目である、と言っているのだ。

このようにシンプルな見た目はビジネス上有利に働くことがある。

意思決定者はビジネス上の決断をするわけだから、シンプルさが売り上げに
貢献すると判断するならば、「デザインはシンプルがいい」と意見することは正しい。


では、意思決定者であっても結局はデザインの素人に「シンプルなデザイン」と要望されるデザイナーは、見た目をこねくり回す仕事しかしてないのか?


デザインはシンプルがよい、と意見をいうのであれば、また役職が高いのであれば、次のステップとしてその目的を十分深く考えないといけない

キーワードは商品開発の水準である「品質」だ。
機構なら壊れない長く持つ耐久性のある構造であったり、指が挟まって怪我をしない安全性の高い可動部であったり、基盤なら…ソフトなら…とそれぞれの品質基準がある。では、デザインの目的とする品質は何か考えたことはあるだろうか。

デザインがクリアする品質は、形、色、操作感などユーザーが見て触って五感で感じるタッチポイントの品質だ。見たり触ることで楽しく感じさせたり、思い出が蘇って温かい気持ちになったり、未来が楽しく想像できたり、家族や仲間とのふれあいをポジティブにするような、感性や情感・気持ちを揺り動かす機能の品質だ。

「シンプルなデザイン」は見た目を意味する言葉として話したが、もう少し深く考えると、実は色形のことではなく、商品企画としてもっとも大切なひとつのことを、ユーザーの五感に的確に訴えかけられる品質を持たせるのがデザイン、ということだ。商品は十分デザインされているのか判断するにはは、この気持ちに対する品質を考えればよい。

その立場からデザインの仕事を考えると、デザインっていうのは外観でもあるし色や質感、動くときの滑らかさ、摺動音、パッケージを開けて光を浴びたときのシズル感、説明書のプロフェッショナルな作り込み、広告やWebサイトのイメージ作りでもある。それらどのステージでも五感を通して気持ちに響く品質を達成することがデザイナーの仕事だろう。
 
五感と言っても、特に視覚は知覚の数十%だか大半を占めているため、多くの場合見た目に左右されるのは事実だと思う。また五感以上に気持ちを左右する感覚はたくさんあると思う。だから他の知覚を忘れてはいけない。香りがなければ料理は美味しく感じにくいし、もっと視界を広げるとお店の照明や雑貨インテリアの雰囲気やスタッフの動き、他のお客さんたちが醸し出す空気など、たくさんの影響下で気持ちが左右され食事の時間が良くも悪くもなる。


「デザインはシンプルがいい」と言いたくなった時、シンプルが何を目的としているのか十分考えることが必要だ。